願いを込めて
「きもの工房扇屋」の家田貴之です。
当店は着物の修復を主におこなっている悉皆屋です。
私は18歳で京都の工房で師匠に弟子入りし、染色補正技能士の資格を得ました。
いまでは師匠から受け継いだ技術を磨き向上させ、お客様のご依頼にお応えするのはもちろん、
その技術を弟子や生徒に伝えていくことを仕事としております。
着物のような伝統工芸品やこういった伝統技術は、受け継がれることで続いていきます。
新型コロナウイルス感染症の流行は、当工房にも少なからず影響を及ぼしました。
これまで着物を着て外出されていた方の着用の機会が減り、当然ですが着物の修復依頼は減り、
主催している染み抜き教室やイベントが軒並み中止となり、休業を余儀なくされました。
着物修復の依頼が無い状況が続くと工房自体の存続も危ぶまれますが、
私にはそれと同じくらい、当工房へ着物修復の技術を学びに来られる生徒の「学ぶ場所」がなくなってしまうことへの危機感がありました。
工房での作業がストップしてしまうと、弟子や生徒に作業を見せることすらできなくなってしまいます。
生徒に修復技術を学んでもらうことができなくなれば、伝統技術を受け継いでいくことができなくなり、
この技術が途絶えてしまうことにもつながります。
ただでさえ伝統技術を生業とする職人が減っている中で、これ以上後継者が不足するような状況はなんとしても避けたい。
私たちがやれることはないだろうか?考える日々が続きました。
時を同じくして、中古着物が不用品として回収されているケースをこれまで以上に目にするようになり、
着物の需要が減少している現実を目の当たりにしました。
実際に買取業者の方のお話を聞いたり、回収された着物を目にする機会もあり、
多くの職人さんの手がかけられている、大量生産は難しい一点物の着物が、着用されずに処分されていることがわかりました。
こういった着物を救い出して、弟子や生徒たちに修復技術を教えることはできないだろうか、
さらに、救い出した着物を、着たいと思う方に着ていただけたら、と考えました。
中古着物や古着着物は染みや汚れが付着していたり、仕立てられたものであればサイズが合わないなどの難点がありますが、
我々の技術を生かせば、それらの汚れや染みを取り除き、清潔かつ綺麗に甦らせることができます。
さらに、着物を解いて反物の状態に戻し、希望があればそれを着用する方にあったサイズに仕立て直すこともできますし、
着物を生地素材として別のものに作り替える形で生まれ変わらせることもできます。
そして、新品で購入するよりもリーズナブルな価格で手に入れることができるのです。
もともと着物は高価なものとされ、一枚の着物を染め変えたりしながらいのちが尽きるまで使おうという
日本人特有の、ものを大切にする文化が色濃く反映されている伝統工芸品のひとつです。
中には、お母さまから娘さんに譲られる振袖のように、ご家族などから代々受け継がれている着物もあります。
傷んだ箇所を修復し、汚れや染みを取り除き綺麗にし、また次の世代に譲っていくことは
まさにサステナブルな行動であるといえるのではないでしょうか。
さらに、着物離れが進んでいく中で、一度は不要となったものであっても、
それらを清潔で綺麗な反物の状態にし、今度はリーズナブルな価格で再び手に取っていただき、
愛着を持って長くご愛用いただけることは私たちにとっても大きな喜びです。
ただ中古着物を綺麗にして反物の状態にして販売する、ということだけで終わらない、
弟子や生徒たちに技術を受け継ぎながら、次の世代や未来につながることができるのではないか。
こういった考えから、今回新たに「サステナブルキモノ」を立ち上げるに至りました。
「着物」という伝統工芸品を、また、「着物を修復する」という伝統技術を後世に伝えていく、
それらが永続的に可能となる「サステナブルキモノ」を少しでも多くの方に知ってもらいたい。
わたしたちの未来にも繋がって、少しでも誰かのお役に立てるようなことができればと思っています。
すでに着物に馴染みのある方はもちろん、日本の文化を知らない方や、これまで着物に興味のなかった方にも
「サステナブルキモノ」を通して何かを考えたり、着物を知るきっかけになれば本当にうれしいです。